福岡地方裁判所 平成2年(わ)105号 判決 1990年5月14日
本籍
福岡県田川郡糸田町三二一九番地
住居
右同
不動産賃貸業
原田キヨ子
昭和二年七月二日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官山口幹生出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができなきときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和六二年一〇月八日ころ、自己の所有する福岡市博多区中州四丁目四〇番一、同四〇番二の宅地及び同宅地上の建物を五億円で売却譲渡したものであるが、右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右不動産の実質上の買主との間で、その売却代金が二億二〇〇〇万円である旨仮装し、一二〇〇万円の架空経費を計上する等の方法により所得を秘匿したうえ、実際の昭和六二年分分離課税の長期譲渡所得金額が四億五九三九万七五一五円、総合課税の総所得(不動産所得、給与所得)金額が六五〇万八四一五円であつたにもかかわらず、昭和六三年三月一五日、福岡県田川市新町一一番五五号田川税務署において、同税務署長に対し、内容虚偽の確定申告書を提出し、右譲渡収入により同六三年末までに買換資産を取得する見込みである旨の買換え承認申請をしてその承諾を受け、同六三年末までに買換資産を取得しなかつたことから、平成元年四月二一日、同税務署において、同税務署長に対し、同六二年分分離課税の長期譲渡所得金額は一億六八〇〇万九九一五円、総合課税の総所得金額は六五〇万八四一五円で、これに対する所得税額は四五八二万九九〇〇円である旨の虚偽過少の所得税修正申告書(平成二年押第三九号の2)を提出し、もつて不正行為により、同年分の正規の所得税額一億三三二四万六三〇〇円と右申告税額との差額八七四一万六四〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 第一回公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官に対する各供述調書
一 桐木豊、笹本雅嗣、福田嘉徳、中村武士及び原田勲の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の「領置てん末書」と題する書面
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書」及び「脱税額計算書説明資料」と題する各書面
一 押収してある被告人の六二年分所得税確定申告書等一綴(平成二年押第三九号の1)及び被告人の六二年分所得税修正申告書等一綴(同押号の2)
(法令の適用)
被告人の判示所為は所得税法二三八条に該当するところ、所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科することとし、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処することとし、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件犯行は、さしたる酌むべき動機もない事情の下で被告人において所有不動産の譲渡所得についての税を逋脱した事案であるところ、逋脱額、率が正規の所得税額の約六五パーセントにあたる八七四一万六四〇〇円という高額、高率にのぼる点において結果が重大であるのみならず、所得隠蔽のために実質的買主である株式会社伍正物産との間で虚偽の契約書や領収書を作成、準備するなどのその犯行態様も計画的であり悪質である。
しかしながら、本件脱税はもともと前記伍正物産の方から積極的に企図した面があり、被告人には同種はもとより、さしたる前科がなく、本件犯行が発覚した後には自らの非を認め捜査に協力し、深く改悛の情を示すとともに、既に本年分については重加算税等を含めて納税済であることなど被告人に有利な情状をも考慮したうえ、被告人を前示のとおりの刑に処し、なお懲役刑について執行を猶予するのを相当と判断した。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 井上弘通)